明日ここにいる君へ
悠仁の部活が終わるその頃には、私は先に体育館を出て…
昇降口の外で、君を待っていた。
すっかり…日が暮れたのに、まだ微妙な熱を保ったまま――…
湿り気のある風が、木々を揺らしていた。
掌に、じわりと…汗が滲んで来る。
腕に着けたリストバンドが。
君が、私の所に来る、そんな……約束の証のようで。
何度も…月に翳して、ソレを見つめていた。
―――……と、
挙げていた腕を、ひょいっと…掬い取られて。
「帰るぞ。」って、君が…
いつの間にか、そこに立っていた。
いつから……見られていたのか?
指と指とが絡まり合っていることも、まるで…当たり前のようにして。
今朝よりも、もっともっと近い距離で…
私達は、歩き始めた。
「夜は、いいね。」
悠仁は…、突然、そんなことを言い出した。
「……私は…余り、好きじゃない。」
真っ暗な…世界に。今宵、また誰かが…捕らわれてしまうんじゃないかって…思うから。
「隣にいる人が、手を繋いでも嫌がんないし。だからいいなあって。暗闇が、隠してくれるもんな?」
「……………。」
「……なんて…―…」
「………………。」
悠仁は、そこまで言って、ぼんやりと…月を見上げた。
丸を描ききれていない、未完成の…、月。
「今日のおにぎり、旨かった?」
「え?」
これもまた、唐突な…質問だった。
「お母さんの手作りなんだろ?」
「……ああ、うん。美味しかったよ。」
「シンちゃんに買ってきて貰ったジュース、アレ、オレンジが絶品。今度そっち飲んでみ?」
「……うん。」
「今日、案外ガールズトークが様んなってたじゃん。」
「……そう?」
「うん。いつもより、七世のカオが柔らかい感じだった。」
「………ふーん……。」
「いいこと教えてやろうか?」
「………?」
「自分が、嫌だとか…苦手だって思ってると、相手も何処かで同じような感情を持ってしまうって。」
「…………一理…ありそうだね。」
「あるよ。だって、俺…今日1日、何考えてたと思う?」
「………?そんなの…わかんない。」
「誰かさんが、チラチラと自分を見てる。だから俺も、そっちが気になって仕様がない。」
「…………。」
「誰かさんの声だけがいっぱい聞こえて来て、こっちに来ないかな、って。」
「…………!」
「モヤモヤさせた?スゲー不満そうな顔してたけど。まあ、結果的に七世がアクション起こしたから…よしよするけど。……そろそろ許してやろうかなって。」
私は…ここで、ようやく…大事なことに気づく。
さっきまでの、脈絡のない話の…意味を。
つまりは……、
君はきっと、私が君を見ていたのと同じように。
私のことを…見ていてくれてたっていう訳で。
だけど、何らかの理由で……
敢えて、静観していた。
『許す』って言葉が出ていたくらいだ。つまりは、君は…
怒っていた?