明日ここにいる君へ



悠仁の住む、マンションの入り口で…呼び出しに応えた君の声は。

まるで寝起きのような…ふわふわとした、声だった。


自分から…ラインを送って来たということを…忘れてしまったのか。
それはないだろうって思いつつ…、何度も何度もしつこいくらいにインターフォンをならして、ドアを…これでもかってくらいに…叩いて。

一秒でも早く、鍵が解かれること…
願った。



「………七世?」

少しだけ開いた…ドアの隙間から。

悠仁が、眠そうな瞳を…覗かせる。


「………おはよう。」

「…………?おはよう。……え。何?」

「……おはよう。そして、お邪魔します!!」


君の大きな身体を押し退けるようにして…、私は玄関先へと入り込む。



真っ直ぐ続く…フローリング。

その先の…扉を、勢いよく…開けた。





「…………………。」



今日は…快晴。

窓から眩しい太陽が射し込んで…、どこもかしこも、キラキラと…輝いて見える。


そんな世界が……

待っていると、まだ――…どこかで。


……信じていた。






「……………まっ…くら。」




悠仁の部屋。

窓にかかったカーテンは…しっかりと閉じられたまま。


薄暗く…じめっとした…空気。



気持ち悪いくらいに片付いている…床の上。

いつもなら、ちょっと油断すれば…、散乱したナナのオモチャを踏みつけてしまっていたのに。


窓際まで…歩いていくのに、何一つ…それを妨げる物はなかった。




「………悠仁…。ナナは?」

私の後を追って、部屋に入ってきた悠仁に。
背中を向けたまま…、そう、聞いた。


おもむろに…、カーテンを開くと、眩しい夏の日差しが……この部屋の中、全てを。

その…、全貌を。


見事なまでに……照らしてみせた。



光が…、目を刺す。






ナナは…

いなかった。



何処にも…いなかった。






「悠仁……、アレ、ほんとう?」

ゆっくりと…振り返って。
不思議そうに首をかしげる悠仁と…対峙する。


「………『アレ』?」


「ライン。ナナが……」

ここまで言って、次の言葉に…詰まった。


「………メール?」

君はしばらく…考えるような素振りを見せて。

それから…、ベッドの中から、スマホを探しだして…

ここでようやく、私と…目を合わせた。




「………そっか、俺……。」



「……………。」





「……七世に、送っちゃってたんだ――…?」




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