明日ここにいる君へ

額の中から、おばあちゃんが…

優しく微笑んで…、私を見下ろしている。

その隣りには、厳格な顔つきの…お爺ちゃん。



「………………。」

最愛の人を…亡くした時。

お爺ちゃんの死期を…知った時、

おばあちゃんは……、何を想い、どんなことを…したのだろう。


必死に…救おうとしたのか。
それとも…、お爺ちゃんの死が、穏やかなものになるように――…
その運命を、受け入れて。

平穏な日々を…過ごしたのか。



おばあちゃんが…日記にしたためたものに。
その、全てが――…書かれていただろうか。





線香の香りは…、毎日嗅ぐそれと違って。

どこか、懐かしさを…運んで来た。





私は…手を合わせ。

それから、キッチンから椅子を持ってくると。
それを踏み台にして――…

柱時計へと、手を…伸ばす。



「えっと……、どうやるんだっけ。」

目を閉じて…、

あの頃の光景を…思い浮かべる。




「……………。」


おばあちゃんがこうやって…、よく時間を合わせていたのは、覚えてる。


けれど―――…

それは、漠然とした…記憶。
その方法を…、見知ってはいない。


「電池……、じゃないのか…。」



針を…ずらして。

時間を…進める。






でも。

私は…結局、この時間のズレを。
直すことが…出来なかった。



ゼンマイを巻きあげる。そんな工程があることを…後に、お母さんから聞いて知った。

知ってるなら…何故直さないのか?って、疑問を投げ掛けたけれど。答えは…、とてもシンプルかつ、意外なものだった。


「毎日見てれば…どのくらいズレてるのか分かるもの。この時計でこのくらいなら、だいたい今はなん分って判断すればいいだけ。」

「そんなん言って、めんどくさいだけでしょう?」


「………違うよ。ちゃんと…調整してる。」


「……え?いつ――…」

お母さん…、が?




「放っておいたら、どんどんずれるんだから。誰かがちゃんと、それをしないと。人が時計に合わせていた時代だよ、別に…焦る必要なんて…何処にもないんだけどね。」

7時を知らせる音が、7つ。
朝食を食べている、その場所…居間まで――…響いてきた。

のんびりと、重みある…音色。

1つ鳴ると…じっと数を…数えては。
今が何時であるのかを…再確認していたのは、小学生の…頃だったか?

私は…スマフォを取り出すと。
ボタンひとつ押して…、時計の表示を確認した。


午前…、7時5分。
数分の…タイムラグ。



おばああちゃんから、お母さんへと引き継がれていた…ものが。


繋がる意思が…、ここにもあった。



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