明日ここにいる君へ
「マメな人だった。この座敷にまつわることは、全部あの人が…していたっけ。」
「……………。」
私の拙い記憶の中では。
それら全ては…、おばあちゃんの姿として、残っている。
「仏壇に…毎日水をあげるのも。盆に…提灯下げるのも。神棚にあげるお供え物にさえも…とやかく言って…うるさい人だった。正直、お父さんが死んでからよ。生前、あの人がしてきたことを…忠実に守って、それを引き継いだのは…お母さんだった。私が出来る唯一のことって言えば、こっそり覚えていた…これくらいで。あとはもう、見もしない、教えてもらいもしなかったから…何にも。」
「………………。」
「……仕事することしか…出来ない。母子家庭だし、自分が稼がなきゃあいけないからっていうのも…確かにあるけれど。母親として、アンタに教えられるものが…何もない。情けないことに…、家のことだって、ろくに出来ていない。忙しさにかまけて…、ほら、二人の思い出にまで…埃被らせて。アンタが…変に器用で、妙にしっかりしてるのも、大人びてることも。私のせい。本当は…、もっと奔放に楽しめていたはずの…人生だったんじゃないかって…最近特に思うの。」
「………お母さん…?」
うっすらと目に涙を浮かべて。
彼女は…頭を下げる。
「……ごめん。いまころ、お父さんにも、お母さんも……きっと、呆れてるでしょうね。」
「何で……謝るの…?」
「ねえ、お母さんは…、アンタのおばあちゃんは。ずっとアンタの側についててくれたね。あの人の意思は…アンタに継がれている。それに気づいていたのに……」
「……………。」
「なのに、私は………」
「どうしたの…、お母さん。変だよ、こんな…」
「……七世。お願いが…あるの。」
「………?」
「夏休みだし、いい機会かも…しれない。少し…、この家の中を少し…整理してみない?」
「…………それは…、もちろん、いいけど――…。」
「ちゃんと…話をするのは。……それから。」
「……うん。」