明日ここにいる君へ
お母さんが 感情を露にするのは…珍しい。
いつも…、冷静で。淡々と…していて。
けれど、決して冷たい人ではないことを…知っている。
時おり…、本当に…わかりづらいかれど。
ちゃんと…私を見ていてくれてるんだって。
言葉や…態度で示してくれるから。
さびしい思いも…したつもりは、ない。
ただ―――…、
多分…、だけれど。
私は、彼女によく似て……感情を見せて来なかったから。
お互いに……誤解を解けぬまま、ここまで来てしまったのかも…しれない。
お母さんはどこからか…バケツを持ってくると。
水をはったその中に…タオルを入れて。
おばあちゃんがしていた、その姿と…同じように。
座敷の、至る所を…丁寧に、何度も…ふきはじめた。
何を…話したらいいのか。
多分…今、お母さんも…迷ってる。
直感だけど…そう、感じた。
「………お母さん。」
「ん?」
「私ね、料理が…凄く苦手だよ。」
「…………?」
畳を水ぶきする手が…、不意に止まった。
「全然…器用じゃない。おにぎり作っていくとね、あんまり不恰好だから…、友達も、すぐわかっちゃう。いびつなおにぎりは、私が作ったものだって見抜かれる。」
「…………。」
「お母さんがお弁当作ってくれた日は…、別。おいしそうって…言われる。実際、美味しいし。だから……、嬉しくなる。自分が…誉められたみたいでさ。……教えて…貰えないかな。」
「え?」
「友だちを…見返してみたい。お母さんと同じで、こんなに美味しそうな弁当作れるんだよって。こういう仕事のない日、暇な時で…いいからさ。」
私は、手を止めぬまま――…、そっと。
彼女の横顔を…盗み見した。
やっぱり…、泣きそうになっている。
「……ありがとう。」
絞り出すようにして、呟いた…言葉は。
お母さんなりの、YESの…返事だったのだろう。