明日ここにいる君へ
「辛くないわけ…、ない。あの人は…特に、人の死には……敏感な人だったから。ねえ、七世。アンタも……そうでしょう?」
「………!」
「だから、アンタの手元に…あの日記を残した。」
「……………。」
「お母さん…、いいえ、おばあちゃんの本心が…そこにあるとは限らない。どんな意図があるのかも…、わからない。ただ、アンタが…自分で見つけ出すことを、望んでいた。」
「………自分…、で?」
「うん。ここは…、ね。私たち二人が住むには、広すぎるくらいで…、見ての通り、ちゃんと管理もできてないでしょう?お金だってかかるし、アパートでも借りて住めば…もっと裕福な生活だって出来たはず。それでも…手離せなかった。」
「……………。」
「ここは……、あの人達の家。あの人達の…全てが、ここに…あるから。残されて…いるから。」
「………それは……」
その……意味を。
何故だか、今すぐに…知りたいと。
そう――…思っていたのに。
お母さんは、目を逸らし…。明言を…避けた。
「この部屋は…、もうよさそうだね。あとは、床の間――…」
そう言って。
お母さんが…立ち上がった瞬間に。
『ピンポーン――…』
玄関のチャイムが…鳴った。
「………タイムリミット。」
お母さんが…ポツリ、と呟く。
「普段やり慣れないことすると、疲れがドッと出てくるモノなのね。キリもいいし、今日は…ここまで。あとは、アンタに頼むわ。」
『ピンポーン…』
「夏休みは長いし。……丁寧に…、お願いね。」
そう――…言い残して。
彼女は私に、バケツを預けると……。
縁側をパタパタと駆けて、玄関へと…急いだ。
柱時計が…また、時を知らせる。
九つ鳴って。
それから…時計の針を、確認した。
ピッタリ…『9時』。
「タイム…リミット、か。」
時間は…やっぱり、止まらない。