明日ここにいる君へ
「七世、お客さん来たから…、座布団出してくれる?それから、お茶の準備。」
1度こちらへと戻ってきたお母さんから…意外な指示が入った。
部屋を綺麗にしたとたん、来客があるとは…。早速何かしらの効果が現れたのか、と思いつつ――…取り急ぎ掃除用具を床の間に押し入れて、襖を閉じる。
それから…、座布団を並べ、今度はキッチンへと走って。
お茶の準備を……と、食器棚や辺りを物色するけれど。
湯呑みに急須は発見されど、如何せん…、緑茶の茶葉が…見当たらない。
「…………。普段飲まないからなあ…。」
仕方なく――…ティーカップを取り出して、紅茶を入れる。
私の好きな、アールグレイ。
優しくて、落ち着く…香り。
それでも何だか腑に落ちないのは…。やっぱりあの部屋には…緑茶が似合うって、そう―…思うから。
おぼんに紅茶と洋菓子を用意して、いざ…座敷へと向かう。
開いたままの…障子戸。その近くまで…やって来ると。
仏壇の、りんを鳴らす音が…聞こえた。
少し早く来すぎたか…、と、客人が座るタイミングを図るため、ちらりと…顔だけ覗かせる。
仏壇に手を合わせて……、背中を真っ直ぐに伸ばした――…その、佇まいは。
しゃんとして、とても美しいものだった。
その人が…写真を見上げている。
おじいちゃんと…おばあちゃんに向かって…軽く一礼して。
穏やかな声で…話し出す。
「この人が…、七世の大好きな…。」
その声は。
私のとてもよく知っている…声で。
どうしてここにいるのだろうって……思った。
「………ゆ…、悠仁?」
私の声を聞いた悠仁は、畳に拳をついて、座布団からおりると。
正座したまま…くるり、と振り返った。
「お邪魔してます。」
綺麗な角度で…お辞儀して。
顔を上げた悠仁と、ここでようやく…目があった。
「……お邪魔してますっって…、なんで…?」
多分…その答えを。君は持ち合わせては…いなかったのだろう。
無言で訴える瞳が、『こっちが聞きたい』って…言ってるみたいだった。
二人ほぼ同時に、ちらりと…お母さんの方へと目を配る。
「七世。立って挨拶なんて…失礼よ。」
一体どういう…つもりなのか。
そうやって咎められると、どうも言い返しづらくて。取り敢えず、様子を窺いながら応対するしかないかと…悟ったのだった。