明日ここにいる君へ
「……ん?」
彼の笑顔が……、不意にこちらに向けられる。
バチっと目があった瞬間に、悠仁は席を立ち上がり……
こちらへと向かって、ゆっくりと歩みはじめる。
「…………?!」
こっちに…来る?!
パタ、パタ…と音を立て。次第に近づく足音。
慌てて視線を落としたけれど、その目線の先で…ピタリと止まった、スニーカー。
「……櫻井七世。アンタも…、ありがとう。」
「……え?」
見上げたその顔は、もう笑ってなんかはいないけれど……。
いたって真面目に語るその言葉には、妙な重みがあった。
「昨日、アンタが救急車呼んでくれたって聞いた。」
「お礼を言われる程のことでは……。てか、どうだったの、頭…。」
にこり、と愛想笑いを浮かべようとしたけれど。
こうやって面と向かったのは初めてで……、
ましてや、相手が彼だからこそ…。
どう笑ったら良いのかわからなくて。
つい…真顔になる。
「脳震盪起こしてたみたい。で…、デカイこぶできてた。……手際良かったって?正直驚いたよ。アンタが助けに来るだなんて。」
「…え……?」
「人が真面目に部活してる時におおあくび。つまんなそうにしてたから、何で見に来たのかと思ってたけど……」
み…、見られてた…!
そしてやっぱり…、見抜かれてる!
シンがすぐ横で…「え。そうなの?」って顔してる。
……誰にも気づかれずにやって来たのに。
だてに『悠仁様』じゃないな…。
「…すっげー必死だったって。俺も見てみたかったよ。」
とうとう彼は…笑いを堪える。
「『頭動かしちゃダメ!』『大丈夫』・・・とか。アンタの声、ちゃんと・・・届いてた。」
「………。」
返す言葉が……ない。
「いてくれたのがアンタで良かった。…それで、そっちは…、大丈夫?」
「……は?」
「………。イヤ、…何でもね。とにかく、ありがとう。」
にこり、とひとつ笑顔を残して……
背を向けた彼に。
「……どう…いたしまして。」
ぽろっと小さく……
言葉がこぼれた。