明日ここにいる君へ




さっき訪れたコンビニで、最後のひとつになった傘を…手に取る。




感じの良い店員さんが気遣ってタグを切ってくれた。そして、その傘を私に手渡しながら
「早くやむといいですけど・・・」と外を眺めながら・・・大きく、息を吐いた。















私は、再び…走り出した。













「……お待たせ。」



私は段ボールに立てかけるようにして。


猫の上に……傘をさした。





白猫…なのかな。



ドロドロで、その正体はわからないけれど……。



なんとなく、そんな気がした。







「……じゃあ…」と言って、立ち上がろうとした瞬間……、





私の頭上で、パラパラと小気味よい音が…鳴り始めた。





「・・・何してんの?」

激しい雨音の中に入り交じった…
低い声。





ふと見上げればすぐそこに。




私の上に傘を掲げた……




登坂…悠仁!






「……猫……。」



「ん?」



「濡れてたから。」



「………。」




悠仁は無言のまま、私の隣りにしゃがみ込む。




「猫って野生だから…本来はそれが…当たり前だろ?」




「……そうだけど。」


アンタでも、冷たいこと言うんだね。



「……ああ…そっか。捨て猫…か」

傍から悠仁の手ぬっと伸びてきて、甲でそっと猫の眉間を撫ではじめた。

ゆっくりとその手を往復させて。
そして、雨音に消されるくらいに小さな声で…ぽつり、ぽつりと語り出す。


「矛盾してる。さも大事そうに…箱に入れて。人間のエゴってヤツかな。」

「……エゴ?」

「捨てるから『ごめんね』って。捨てるのに『元気に生きてね』って」

「………」

沈黙が続き、その場から立ち去ろうにも…そうもできない空気。

気まずいような、その雰囲気の中で…ふと彼の方を見ると。

こちらを向くことなく、ネコを撫で続けながら…悠仁が口を開いた。


「さっきコンビニで櫻井のこと見掛けてさ。傘買ったのにささないで帰るから……、アホかと思って」



「…………。」



「……けど、案外優しいとこもあるっていうか」




「……言っておくけど。アンタくらいじゃない?私をいかにも冷めた人間のように思ってるのは。」



「………だって、その通り」

顔を上げた悠仁が、おどけるような言い方をもって私と対峙する。



「……!そうかもしれないけど……。」



「つまんない女だって思ってたよ、正直。」



「…………。」



「…あ。不満?眉間にシワ寄ってるよ」

「え。」

「うっそー。」

「はあ?」

「おお、初めて見るな、そのイラッとしたカオ」

「……馬鹿にしてる?」

「別に」

「…口元笑ってるけど」

「やっぱこっちが本性か…、って。」



こっちって……どっち?




「……意外な一面発見。この前助けてくれた時もそう思ったけど、なんか悪かったかなって。だいぶ誤解してた。」




「……誤解?」





「仮面を取ってもそんなに変わんないじゃん。いい人ぶってる偽善者よりも、こっちの方が自然でいい」



「………は?」



何……それ?



私は、彼の手を…払いのけて。

思わず…、睨む。



悠仁は口の端をちょっとだけ上げて。言葉を…続けた。


「……。櫻井がしてたのと同じだよ。だから、拒絶する理由なくない?」


「………?」


「櫻井が濡れるから、傘さしただけ。もしかして、アンタも野生?とってかかってきそーな顔してる。」


「――…ちょっ…」




「ところで。俺コイツ貰っていっていい?」






は?

切り替え……早ッ。




「……私に聞かれても。」



「そう?じゃあ勝手にそうする」





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