明日ここにいる君へ






なんでこんな急展開に?…って思いながらも。




悠仁宅のインターホンを鳴らす私。






でも……、彼は出ない。





「………。」



鍵を開けておくって言ってたっけ……。








「……お邪魔します。」




一応そう断って…



玄関へと、足を踏み入れる。






「……靴は……ある。」



…が、返事は……ない。

一足の大きいサイズのスニーカー。乱雑に脱ぎ捨てられたソレは、おそらく…悠仁の物だ。


飾り気のない棚。
その上に、小さな木箱だけが置かれていて。

覗くとそこには…鍵が入っていた。



「…………。いるん…だよね?」






仕方なく、とりあえず靴をぬいで…隣りに並べ置いた。
ついでに、ひっくり返ったスニーカーも、直しておく。

そのまま、奥の部屋へと続く廊下を真っ直ぐ歩いて行くと……。





「………。水音…?」




途中、右手にある扉の方から……




微かに聞こえる、流水音。






シャワーの…音?




まさかの……


入浴中?!



「…………。」



まさか、素っ裸で出てきたりはしないよね……?!




「………。お邪魔します!!!」



扉に向かって大声で叫ぶと……。




「あ、櫻井?…ちょっとこっち来て!!」



……??!!



入浴……許可?ってんな訳ないし。




妄想もそこそこに、目を閉じたまま入っていく。

扉を開けたそこは、湿り気と熱気が漂う…脱衣所だった。




「カゴからタオルとって!」



「え。ああ…、ハイ。」




タオルを取って。

しばらくすると……




ガチャっと浴室のドアが開いた。




「きゃああっ!………って、……ん?」



慌てて目隠ししたその指の間から……



そうっと覗くと。



たちこめていた湯気は消え去り……。






「………。何してんの?」




出てきたのは、



ズボンの裾をたくしあげて、シャワーのヘッドをにぎる悠仁と……。





痩せっぽっちの…子猫。





「何って……、タオルで拭いても汚れとれなかったから、猫用のシャンプー買って洗ってみた。」





「……なる程……。」



緊張が……


一気にとけていく。





「………?どうした?」



「いえ。何でも。」



この人といると、どうにも調子が狂う。



「そこにドライヤーあるから、タオルで拭いて、乾かしといて。」



「ん。わかった。」





私はタオルを広げると…。



悠仁の手から、子猫を受け取った。



「軽……。」





優しくくるんで、胸に抱き抱えると……。



『ニャア』と、弱々しくも…、ひと鳴きした。








< 63 / 285 >

この作品をシェア

pagetop