虹色センテンス
意外に大きな落下音に無意味にビビリまくるアタシの方にそれはゆっくりと転がってきた。
その動きをゆっくりと目で追い、そのままゆっくりと視線を上にあげると、楠本と眼が合った。
紅っぽい瞳と口の形が「取って」と言ってる。
また無意味に緊張するアタシ。
椅子に座ったまま体を横に倒してシャーペンを手に取り、楠本に無言で手渡す。
そのとき、あたしの指先と楠本のそれが僅かに触れた。
それはすごく長くて、いやそんな気がしただけって分かってるけど苦しいほどの沈黙で、10分にも1時間にも思えた。
またあたしは肩をビクつかせて、慌てて手を戻した。
俯いたままちらりと楠本を見ると、にたりと笑って前に向き直った。

やばい。恥ずかしすぎるぞアタシ!!
態度に出すぎだよあんなの自分からバラしてるようなもんじゃんか!!
しかも楠本に笑われた…!
顔が急速に熱くなっていくのが分かる。
あたしはたぶん耳まで真っ赤で、それをまた楠本に見られたくなくてああもうアタシは、耳を押さえて俯いた。
教室は静かだった。(普段5組が静かになるはずがないからきっと寝てるんだ)
その空間では、どんどんとあたしの胸をどついてくるうるさい心臓の音なんて隅っこまで響きわたってる気がして、
鎌倉時代について熱弁をふるうハゲ先生の声と合わさってさらに威力を増してる気がして、
結局その時間は顔をあげることができなかった。
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