明日へのメモリー

 それから、わたしは樹さんに夢中になった。

 週二回、このサンルームでのお勉強タイムが待ちきれなかったほど……。

 夏休みが終わると同時に、彼はうちの会社のバイトをやめたらしい。

 この展開をわたしの次に喜んでいるのは祖父だった。時々わたし達二人の進展具合を調べるように覗きにくる。


「まーったく、おじいちゃんたら、馬鹿なことばっかり言って! 何もないってば!」

 祖父から「その後、どうかな?」と問われるたびに、わたしは不機嫌に答えた。

 そのくせ心の中では目いっぱい期待している。

 彼は、いつもちょっと困ったように、こちらを見るだけだった。


 友達から色々アドバイスをもらって、わたしなりに攻略の対策も練ってみた。

 彼が来る日は少しだけメイクし、薄い色のルージュを引いてまつげにちょっとラメの入ったマスカラをつけたり、かなり露出の高い服をコーディネイトする。もちろんパフュームも忘れない。

 そして、授業中はできるだけ彼のそばに座り、身体が触れ合うところまでいけば大成功!

 後は、一生懸命に話を聞いた。

 わからないところを尋ねる振りをして、彼の顔を好きなだけ眺めたり。
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