明日へのメモリー


 これなら第一志望の大学に進学できるかも、というレベルに達したのは高二の秋だった。

 樹さんはとっくに大学を卒業し社会人になっていたけれど、土日を利用してまだ家庭教師を続けてくれていた。

 相変わらず、彼の一挙一動にへこんだり盛り返したりしながら、時間だけが過ぎていく。


 三学期の半ば、ヴァレンタイン・ディの数日前。

 樹さんが来る土曜日、わたしは午後からキッチンに立てこもり、チョコレートケーキを作った。


「これ、美里が作ってくれたの? 俺に?」

「ちょ、ちょっと見た目は悪いけど、味はまぁまぁだから!」

 ティータイムに言い訳しながら紅茶と一緒に出すと、彼は嬉しそうに笑ってくれた。

 どきどきと見守っているわたしの前で、おいしそうに食べ始めたので、思わずその顔を携帯で撮る。

 えへっ、とVサインしたら、こいつー、と言いながら、お茶目なポーズまでとってくれた。


「うまかった、サンキューな」

 彼の笑顔にほっとして、わたしは照れ隠しにしゃべり始めた。

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