明日へのメモリー
「チョコケーキは初めてだったから、レシピ見ながら一生懸命作ったの。次はマーブルケーキとフルーツケーキ、どっちがいい? 来月、頑張ってまた作るね!」
青天の霹靂はその瞬間に起こった。
そっと身をかがめた彼が、わたしの唇に温かい唇を押し当ててきたのだ。
えっ……!
ちょっと待って?
今、何が起こったの……?
ぽかんと目の前の樹さんを見上げると、不思議な視線がわたしを捉えた。
いつもの大人ぶった目とはどこか違う。初めて見るその表情に、急に心臓が暴走し始める。
「……お礼」
やがて、ぽつんとこれだけ言うと、彼は硬直しているわたしの肩をポンと叩いた。
「次までに、続きを二十ページやっておくこと」
まるで何事もなかったようにサンルームを出て行く彼を、わたしは黙って見送った。
扉が閉まると、唇に手を当て、へなへなとその場に座り込む。