明日へのメモリー

 それから一か月後、衝撃は突然訪れた。

 ホワイト・ディの可愛いキャンディボックスを持って訪れた樹さんが、今日で家庭教師を終わりにしたいと、親の前で突然言い出したのだ。

 仕事が忙しくなり、時間的にどうしても難しくなったらしい。


 その日、わたしの頭には数学も英語もまったく入らなかった。

 泣くまいとしても、涙がぼろぼろこぼれてくる。

 樹さんがとうとう問題集を投げ出した。いつになく優しい声で、色々これからのことを話しかけてくれる。

 でも彼のいない『これから』なんか、考えたくもなかった。

「美里……、お前がもう少し……」

 ためらうように言いかけた彼が途中で、ああ、もう、って顔をして、ちょっと乱暴にわたしを抱き寄せた。

 驚いて涙が止まり、息まで止めて彼を見上げると、ぽつっと声が降ってきた。

「お前もそのうち、いい彼氏ができるさ。こんなままごとみたいな恋じゃなくて、ちゃんと本物の恋をしろよ」

「な、何よ! オジサンみたいなこと言って……。おままごとなんかじゃ……ないもん!」

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