明日へのメモリー

 コーヒーを入れている樹さんからは、完全に大人の余裕が感じられた。

 ミニスカートのすそを引っ張り、わたしは背筋を伸ばした。もっと、大人っぽくしなくっちゃ。

「いきなり来て、ごめんなさい。お仕事中だった?」

 持ってきたマーブルケーキをそっと差し出しながら尋ねる。

「いや、別に急ぎじゃないから……」

 ローテーブルに二つのマグカップとわたしのケーキを置くと、樹さんはわたしの前に胡坐《あぐら》をかいて座った。

「かてきょーの件なら、いくら言っても無理だぞ。実を言うと、去年からかなり厳しかったんだ、スケジュール的に」

 思わずため息が漏れた。

 やっぱり。生徒としてしか見てくれていない証拠だ。

 でも、今日こそ言うと決めていた。膝の上でぐっと両手を握り締め、わたしは挫けないうちに口を開いた。


「違うの! わたしの気持を聞いて欲しくて……、だから来たの。わたし、樹さんのこと、初めて会ったときからずっと大好きだったの。お、お願い、黙って聞いて!」

 目を細め、即座に何か言いかけた彼を無理に押しとどめると、わたしは切羽詰った口調で話した。
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