明日へのメモリー


 一目で好きになったこと。家庭教師になってもらえたこの一年半、わたしがどんなに幸せだったか、樹さんしか見えなかったか……。

 きっと暑苦しい奴、と思われているだろう。でも言ってしまいたかった。

 そうすればすっきりするし、いつかきっとあきらめもつくから……。


 意外にも、彼は真剣にわたしの言葉を聞いてくれた。

 一度口にすると、次から次へと思いが溢れてくる。

 とうとう涙までぽろぽろとこぼれ出した。やだ、泣き落としって最低なのに……。

 慌てて目元をぬぐったとき、ふいに彼が動いた。最後の勉強の日みたいに、わたしの身体が彼の両腕に包み込まれる。

 びっくりしてまた固まってしまった。あの日より強く抱き締められている状況が信じられず、そのままじっとしていた。

 おそるおそる顔を上げると、ばちっと目が合った。慌てて視線を逸らせようとしたけれど、もっと覗きこまれてしまう。
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