明日へのメモリー
馬鹿な美里……。
キスもできないお子様だって、自分で証明しちゃった……。
がっくり俯いた途端、飲めよ、と冷めかかったミルクコーヒーが目の前に差し出された。まだ温もりが残るマグを両手で包みこむ。
飲みながら黙って向き合っていると、彼がぽつっと言い出した。
「……わかったと思うけど、俺とお前がお付き合いって、現実的に厳しそうかな、と思うわけ。まだちょっとな……。それに俺、海外出張が増えるんだ。この春から」
「えっ? どこかへ行っちゃうの? どこに?」
お付き合い云々の言葉も、最後の衝撃にかき消されてしまった。
ぎょっとして身を乗り出すと、彼がふっと笑う。
「東南アジアの方かな、とりあえず……。二、三か月はザラにいなくなると思う。年に半分くらい向こうに行ってるかもしれないし」
「でも、それじゃ、彼女さんは? どうするの?」
怪訝な顔をした樹さんに、ほら、勉強中によく電話してた人よ、彼女さんでしょ? と説明する。途端に彼は、げほげほとコーヒーにむせてしまった。
「お前なぁ、人に思い出したくないこと、思い出させるなよ……」
どういうこと? さらに突っ込もうとすると、頭をこつん、とこずかれた。
「振られたの、俺。彼女、もっといい男が見つかったそうで」
「嘘! 樹さんを振る人なんているの? 信じられない!」
大声で驚くと、今度こそ大笑いされてしまった。もう一度優しく抱き寄せてくれる。