明日へのメモリー
「そう言ってくれるのは『美里ちゃん』だけかもな。ま、というわけで、お付き合いは置いといて……。たまに会うか? これからも?」
「え、いいの?」
「時間があるときだけだぞ? 月一回も無理かもしれない。お前だって、これから受験本番だし」
「二か月に一回でも三か月に一回でも、絶対文句言わないから! これからも会ってくれる? 本当に?」
「お前がよければ、な」
「いいに決まってる! わーい、嬉しいー!」
信じられない展開になった。これ、夢じゃないよね? と、わたしは頬をつねる代わりに、目の前の樹さんにがばっと抱きついてみる。
地獄の後で天国を見るとはこのことだ。
それから、レストランに行って二人で食事した。
もっと大人っぽい服を着てくればよかった、と激しく後悔したけれど、とても楽しかった。車で送ってくれた樹さんが、別れ際に言った。
「俺がいないからって、勉強さぼって成績下げるなよ。今度会うときは模試の結果を持って来ること」
あー、そうですか……。
わざとげんなりした顔で「もう、いいから!」と返すと、彼はにやっと笑って、じゃあな、とUターンしていく。
わたしはぼーっと家に入った。何だか、夢の中にいるような気がする。
それからしばらく、わたしは幸せではじけそうだった。
「一気に春だねぇ」と友達からあきれられたほど……。
けれど、現実はやっぱり甘くなかった。