明日へのメモリー

 その後、樹さんは本当に忙しくなった。海外と日本をしょっちゅう往復しているらしい。

 出発前に連絡をくれればいい方で、ずっと連絡がないので思い切って電話しても全然つながらない、なんてこともしょっちゅうだった。

 彼女を気取って、あれこれ聞くのも嫌がられそうだし、結局、いつ来るかわからない連絡を待つしかない。

 わたしのことなんか、きっと忘れ去られてるんだろうな、と思うと悲しくなる。

『付き合うって感じじゃない』と言われた意味がだんだん身に染みてきた。彼にたまたま予定がなければ会ってもらえる。本当にそれだけの関係……。

 それでもいいって言ったの、自分でしょ? ゼッタイ文句言わないって。

 自虐的につぶやいても、やっぱり悲しかった。勉強の合間に携帯の占いコーナーを熟読したり、いっそ他の男の子を好きになれたら、なんて考えてみたり……。

 予備校の講習に通いながら、ため息をつく日々だった。



 それでも、たまに誘われると、もやもやした気持が全部吹き飛んでしまうほど嬉しくて、いそいそと出かける。

 悔しいから本人には言わなかったけど、樹さんはスーツでもラフな服装でも本当に決まって見えた。会うたびに大人の余裕が増している。

 運転する横顔をちらちら眺めては、よくこんな人がわたしと会ってくれるなぁ、と不思議に思ったりした。

 その時だけは、彼を独占できるのが嬉しかった。彼の方も結構楽しんでいるように見える。

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