明日へのメモリー

 毎日遅くまで勉強しているせいで、わたしが車内でうたた寝することがあった。

 目が覚めると彼が車を止めて、不思議な目でわたしを見つめている……。

 えっ、今どこ? って、ぱちぱち瞬きしていると、ドキっとする暇もなくキスが落ちてきたり……。

 そんな瞬間が一番好きだった。彼の熱い唇に自分を委ねると、悩み全部が吹き飛ばされて、もしかしたらこの人もわたしのことを……、みたいな期待でいっぱいになる。

 やっとキスに慣れ、彼の首筋に腕を絡めて思い切り応える。

 でも、もっとたくさんして、ってすり寄ってもそこまでだった。抱き締めてキスしてくれるけど、いつも彼はそこで止めてしまう。


 ある日、キスに夢中になって彼に胸を押し付けていると、急に乱暴に引き剥《は》がされた。

 わたしをシートに突き戻し、少し荒々しい息遣いで前を向いた彼に、ショックを隠せず問いかける。

 わたしはいいのに……。どうして?

 けれど彼は、顔をこわばらせたまま、車のエンジンをかけてしまった。


 やっぱり、そこまでの相手にはなれないんだ、わたしじゃ……。

 そう思い知らされた、最悪の瞬間だった。

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