明日へのメモリー
そんな関係が、大学に入学した今年の春まで続いた……。
最後に樹さんに会ったのは、五月雨が降る夜。
しばらく前から入院していた祖父が、とうとう他界したときだった。
九重ホールディングスからなぜか告別式場に大輪の白菊の花輪が届き、両親がひどく驚いていた。
弔問《ちょうもん》に来てくれた樹さんと、大勢の人の間で立ち話をした。
あの時、近々アメリカに行くと言っていた。今度は半年以上の長期になるかもしれないと……。
「本当にいい人だった……。俺も好きだったな」
別れ際、懐かしむように祖父の遺影を見てつぶやくと、優しく言った。
「元気出せよ。何かあったら、いつでも俺にメールしてこい。電話でもいいぞ」
気遣ってくれてるのよね、ありがとう……。わたしは力なく微笑み返した。
無理しなくてもいいよ。
この恋から、もう卒業しなくちゃいけないって、わかってるから。
でも、伝える勇気が出なかった。その時は……。