明日へのメモリー
「……選択の余地なんてないんでしょ?」
何とか明るく見せたいのに、絞り出すような声しか出ない。母も無言だ。
「この縁談をお受けしなかったら、融資が受けられなくて、会社が潰れちゃうのよね?」
「そう……だな」
父がつぶやくように答える。
「だったら、わたしに選択権ってあるの?」
自分にそっと問いかけてみる。
こういうとき、どうしたらいいの?
絶対イヤ、と突っぱねて、自分の人生をあくまで生きる?
でもわたしは、そんな強さを持ち合わせていなかった。
やりたいことも、特にないから。
そう、たった一つをのぞいては……。
しばらくして、わたしはようやく父に微笑みかけた。
「わかった。お見合いします」
「すまんなぁ、美里《みさと》……」
何度も手を合わせる父に、笑顔でうなずいて見せる。
ここまでもう精一杯頑張ってきた両親に、これ以上負担を強いることはできない。
疲れ切った父の顔に涙が一筋伝った。胸がきゅっと痛くなる。