明日へのメモリー

「……選択の余地なんてないんでしょ?」

 何とか明るく見せたいのに、絞り出すような声しか出ない。母も無言だ。

「この縁談をお受けしなかったら、融資が受けられなくて、会社が潰れちゃうのよね?」

「そう……だな」

 父がつぶやくように答える。

「だったら、わたしに選択権ってあるの?」


 自分にそっと問いかけてみる。

 こういうとき、どうしたらいいの?
 絶対イヤ、と突っぱねて、自分の人生をあくまで生きる? 

 でもわたしは、そんな強さを持ち合わせていなかった。

 やりたいことも、特にないから。

 そう、たった一つをのぞいては……。


 しばらくして、わたしはようやく父に微笑みかけた。

「わかった。お見合いします」

「すまんなぁ、美里《みさと》……」

 何度も手を合わせる父に、笑顔でうなずいて見せる。


 ここまでもう精一杯頑張ってきた両親に、これ以上負担を強いることはできない。

 疲れ切った父の顔に涙が一筋伝った。胸がきゅっと痛くなる。

< 3 / 71 >

この作品をシェア

pagetop