明日へのメモリー
ごくっとつばを飲み込むと、わたしは問いかけた。
「樹さん、一度会いたいの。仕事の後でいいから、時間空いてない?」
「ん? 仕事の後なら、明日でもいいけど?」
切羽詰っていることに気付かれただろうか。「どうした?」と、どこか用心するように問い返され、慌てて普通の声を繕った。
「あ、あの、無理しないでね……、忙しければ……」
「相変わらず遠慮深い奴……」
くすっと笑って、朗らかな声が返ってきた。
「じゃ、明日な。頑張って八時過ぎには終わらせるよ」
わたしは嬉しくなって、携帯に思い切り笑顔を向けた。
「ありがとう! それじゃ、いつものお店で待ってるから」
忙しい彼がすんなりオーケーしてくれるなんて夢みたい。
明日は、彼が見直してくれるくらいおしゃれしてみよう。
それから……。
でも、あまり期待し過ぎちゃ駄目。
わくわくし始めた心に、わたしは戒めるように言い聞かせた。
これで最後。本当に最後。
結納の日は一週間後。未来はもう決まっている。