明日へのメモリー
「どーせ胸もヒップもまっ平らだったわよ! こっちこそ、何このオジサン……って思ったんだから!」
「そのオジサンにずっと、しがみつくようにぶらさがってたのは、どこの誰でしたっけ?」
「だっ、誰がぶらさがっ……」
「それに、まっ平らは今もそう改善されたようには見えないけど?」
にらむわたしに負けず、嫌味っぽく言い返してくると、彼はわざとらしくわたしの胸元に視線を這わせた。カッと頬が火照る。
確かに、男性好みの体型には程遠いけど、今はそれなりに出てるところは出ているんだから!
「ひどーい、じゃ、試しに触ってみる?」
冗談を逆手にとって、わたしは甘えるようにすり寄った。カクテルが効いてきたのか、行動が大胆になる。
ネクタイに指を絡ませ、上目遣いに見上げると、誘惑するように舌先で自分の唇をちらっと舐めた。
樹さんの表情が変わった。わたしの顎《あご》を片手で持ち上げ、じっと見下ろす目が急に翳《かげ》ってくる。
自分で始めたことなのに、どぎまぎした。
慌てて彼の手を払いのけた拍子に、テーブルの華奢なグラスをひっくり返してしまった。