明日へのメモリー
7
樹さんの両手が一層強くわたしの腕に食い込んだ。
目を閉じていても、視線が突き刺さるようだ。
「ごめんなさい、変なこと言って……。いいの、気にしないで」
やっぱり、あり得ないよね、そんなこと……。
沈黙に耐え切れず、慌てて撤回しながら、何とか身を引き離そうともがいた。
「今のは忘れて……。わ、わたし、もう帰るから……」
「帰せる……はず、ないだろうが!」
逃さない、というように、彼はわたしを片腕できつく抱えたまま、携帯を取り出した。
もしかして、フロント……? その会話にどきりとする。
急きょ、このホテルに部屋をひとつ頼んだようだ。
でも、ここって、日本でも五指に入る国際ホテルじゃなかった?
困惑するわたしを引きずるようにして、エレベーターのボタンを押すと、中へ引っ張り込んだ。
二十五階で降りると、ホテルマンが待っていた。先に立って丁重に案内してくれる。
落ち着き払った態度で堂々と歩く樹さんに、わたしは驚きを隠せなかった。