明日へのメモリー
ずっと胸が痛くなるほど切望して、必死にお願いまでしたくせに、いざとなると心の準備が全くできていなかった。
困惑して振り返ると、樹さんはドア近くに立ったまま、こちらをじっと眺めている。まるでわたしの一挙一動を観察しているようだ。
ああ、今きっと、すごく情けない顔してる。
まだバージンです、なんて、一目瞭然《いちもくりょうぜん》よね……。
大きなベッドの前に、憧れの人と二人きりでいる時、どう振舞えばいいのか見当も付かなかった。
びくびくしていると、彼がふーっと大きなため息をつきながら近付いてきた。
ベッドに顎をしゃくり「座れよ」と高飛車に命令する。
わたしはおとなしくバッグとコートを置いて腰を下ろした。へたり込んだという方が正しいだろう。
彼も脱いだジャケットをソファーに放り投げると、ネクタイを緩めながら傍に立った。
つい身構えてから、しまったと思ったけれどもう遅かった。彼の目が、おかしそうにきらめく。
「そっちは後だ。まず、俺にわかるように説明しろ。今、お前が置かれてる状況を」