明日へのメモリー
「美里、お前もお前だ。どうかしてるんじゃないか?」
今度は、説得するみたいな口調になった。
「どうしてはっきり『嫌だ』と言わないんだ? そいつと結婚なんかしたくないんだろ? だったらそんな話、さっさと蹴飛ばせば済むことじゃないか」
「そんな……! 簡単に言わないでよ! 何も知らないくせに!」
かっとして、わたしは激しく言い返した。そうできれば、どんなにいいか!
「何が問題なんだ?」
「お父さんが、今どれだけ……お金のことで苦労してるとか、悩んでるか、とか……」
また涙がこぼれ出した。
目を細めた樹さんの前で、しゃくりあげながら、今まで言いたかったけれど誰にも言えなかった本音を、思い切りぶつけた。
「わたしが断ったら、うちの会社はもうどこからも融資を受けられないの! おじいちゃんやお父さんが、今まで一生懸命頑張ってきた会社がつぶれてしまうのよ! 従業員の人達だって職を失う! その後、たくさんの借金はどうすればいいの? わ、わたしが……このお話を受けさえすれば、それが全部食い止められるんだったら、嫌でも何でも、仕方ないじゃない!」
「だからって……、お前がスケープゴートになる必要はないんだ!」
樹さんの声が急に荒々しくなった。
さっきより力を込めて、わたしを捉える。
「いたっ、痛い! 離してよ! 樹さんには関係ないでしょ……」
「俺をここまで巻き込んでおいて、そんなセリフ、聞かないからな! 関係ない……? 大ありだろうが!」
そう言い放つと、彼は乱暴にわたしの唇を奪った。