明日へのメモリー


 そのまま、もう一度わたしの唇をこじ開け、怒りと激情の混じったキスが続いた。

 口の中を荒っぽくまさぐられ、血の味を感じる。泣きそうになったとき、彼がゆっくりと離れていった。

 いや! 行かないで!

 焦って伸ばした手が大きな掌《たなごころ》に包まれる。

 そのままきつく抱き締められた。激しく打ちつける心臓の音だけが、耳にやたらと響いてくる。

「美里、俺を見ろ」

 促され、恐る恐る見上げると、さっきより優しい眼が見下ろしていた。少し落ち着いた声で問いかけられる。

「……抱かれるの、まだ怖いか?」

「ううん、違うの! そうじゃなくって……」

 つっかえつっかえ、正直に打ち明けた。

「こ、怖いのは、一番怖いのは……、樹さんがわたしに……、呆れちゃって、やめてしまうことなの! 本当にわたし、こういうこと何も知らないから……、ごっ、ごめんなさっ」

 懸命に謝ろうとしたのに、彼の指で止められてしまった。

「そんなこと、とっくにわかってる……。余計な心配するな。お前は俺の言うとおりにすればいいから」

「ん……」

「それじゃ、俺に触れてみろよ」

「えっ?」
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