明日へのメモリー

 もちろん、樹さんからは何の返信もなかった。

 まだ何かを期待していた自分の浅はかさを思い知らされ、笑ってしまう。

 夢の一夜が終わると、後は結納の日を待つばかりになった。

 向こうに指輪のサイズを伝え、会場となる料亭が決まり、周りで準備がどんどん整っていく。

 わたしは完全にあきらめの心境で、その日を待っていた。


 結納がいよいよ明日に迫ってきた。大学へ行く気にもなれず、わたしは自室に閉じこもって、ぼんやりしていた。

 一人になると考えるのは樹さんのことばかりだ。会いたくてたまらない。

 彼の声、眼差し、無数のキスが鮮やかに蘇り、激しく頭を振っては懸命に幻を追い払った。

 とても惨めだった。彼からの連絡は一切来ない。

 携帯を一日に何十回も眺めては、もう終わったことだと思い知らされるばかりだった……。


 *** *** ***


 その日の午後、急に帰ってきた父に大声で呼びつけられた。なぜか、ひどく興奮している。

「美里、出かけるからすぐに支度をしなさい! 明日用に借りてある着物を着てな。お母さんもだ」

 え……? 日取りが早まって今日になったの?

 覚悟はしていたのに、やっぱり顔から血の気が引いていく。

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