明日へのメモリー

 母も驚いたようだった。

「どういうことです?」

「実はさっき、TK銀行の塚田頭取から電話があってな……。その……、明日の結納をキャンセルしたい、とおっしゃるんだよ。理由がはっきりしないが、この話を白紙に戻したいと言われてな」

 えっ? それじゃ、あの息子と結婚しなくてもいいの?

 訳がわからず、ぽかんとした。

 隣で母が、血相を変えて父に詰め寄っている。

「どうして今頃になってそんなことを? こちらの対応にご不満でもありましたの? 困りますよ、それじゃ美里の立場はどうなるんです? 会社への融資だって……」

 父の顔が紅潮してきた。声も上ずっている。

「それがだな。その電話が切れたあと、いよいよ全て終わったと呆然としていたら、もうひとつ電話がかかってきた。それでわたし達全員、ご招待いただいたんだよ! どうなっているのか、さっぱりわからないんだが……」

「ご招待? どちらに?」

 母が鋭く問い返した。要領を得ない父を揺さぶらんばかりだ。

 父が大声で叫んだ。

「驚くなよ! なんと、あの九重グループ会長の本邸だ! 天下の九重ホールディングス会長、九条武文《くじょうたけふみ》氏の秘書の方から直々にお電話があってな。会長が、うちとの取引の件も含め、一度ご家族全員にお会いしたいとおっしゃってくださっているそうだ。夢のようじゃないかね?」

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