明日へのメモリー
「九重?」
わたしと母が同時に叫んだ。
多分同じ事を考えたのだろう。瞬時に真っ赤になったわたしの顔をまじまじと見つめ、問い詰めてくる。
「そう言えば、榊原さんからあなたに何か届いていたわね? 何かお話したの?」
「あ、あれは……、だけど、すぐにお返ししたもの!」
「美里! 正直に答えなさい! 彼はいったいどういう人なの?」
「そんなこと、わたしに聞かれても……」
ぶんぶん首を振りながら、自分でも愕然《がくぜん》とした。
そう。わたしが知っているのは、榊原樹さん本人だけ。
それすら、はっきりしたことは何も知らない。
知り合って三年以上経つのに、何度もデートらしいこともしているのに、彼のご家族や周囲のことなんか、まるっきり聞いていなかった。
本当にどうして九重の会長秘書が直々に電話してくるの? しかもこのタイミングで……。
一中小企業が倒産の危機に瀕しているからって、日本を代表する巨大金融グループのトップがわざわざ声をかけるなんて絶対ありえない。
それくらい、学生のわたしでもわかる。