明日へのメモリー


 高校一年の夏休みに、わたしと樹さんは出会った。

 八月の蒸し暑い夜更け、珍しく酒に酔った祖父が、見知らぬ青年に抱きかかえられるようにして帰ってきた。

 母に続いて出てきたわたしを見るなり、祖父はくしゃくしゃの笑顔になった。
 こっちへ来いと手招きし、酒の勢いに任せて、だみ声を張り上げる。


「美里、見ろ、おじいちゃんがお前のために見つけてやった結婚相手だぞー。今はうちの会社でアルバイトなぞしとるがな、天下の九重《ここのえ》グループの人間だ。いい男だろうが? 頭も切れる! K大生だ! ……樹君、どうだ? うちの美里は美人だろうがー」

「おじいちゃんってば、酔っぱらっちゃって、信じられない! ご迷惑かけてるってば!」

 その若い男性も、慌てたように祖父をゆさぶった。

「ちょっと、社長! 何言ってるんですか? …ったく、困ったな」

 そうつぶやくと、顔を上げてわたしに目を向けた。
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