明日へのメモリー
混乱しながら言い合っていると、父がまた大声を出した。
「とにかく急いで支度をしてくれ! 三時に九条邸から迎えの車が来る約束なんだぞ。あと一時間半しかないじゃないか!」
「く、九条邸って、どんなお屋敷なんです?」
「わからん。お前達は一番いい着物で行くしかないだろう」
たちまち、家中ひっくり返したような大騒ぎになった。
大至急シャワーを浴びている間に近くの美容師さんが呼ばれ、わたしは本番用メイクをして髪を結い上げ、京友禅の振袖を身に着けた。
まるでもう一回お見合いに行くみたいだ。でも異議を述べている余裕はない。母も一番高級な着物を着込み、やけに念入りに化粧している。
ばたばたしているうちに、たちまち三時になった。時間通りにドアベルが鳴る。
マツ乃さんが恐る恐る開くと、いかにもお抱え運転手という風情のブラックスーツの男性が、リムジンをバックに、にこやかに立っていた。