明日へのメモリー
恐縮しながら座っていると、すっと前方の障子が開き、留袖の、とても上品できれいな女性が入ってきた。
年は母と同じくらいだろうか。お茶とお菓子――それも本格的なお抹茶のお茶碗で――の支度を整えた、さっきの人が後ろに続いている。
「急にお呼びたていたしまして、申し訳ありませんでした。どうぞ、おくつろぎくださいな。申し遅れました……。榊原可南子《さかきばらかなこ》と申します。息子の樹が皆様に大変お世話になったそうで……」
「樹さんの……お母様ですか!」
すっとんきょうな声をあげてしまい、脇からぐっと睨まれた。
両親が慌てて、とんでもございません、こちらこそ大変大変お世話になりまして……と、何度も頭を下げながら、上ずった声で返している。
二人とも、完全に訳がわからないという表情だ。
一通りの挨拶を終えると、その女性――樹さんのお母さん――は、お茶を勧めてくださり、わたしに親しみのこもった目を向けた。
「あなたが美里さんですか。本当に、とてもかわいらしいお嬢さんだこと……。今、F女子大学に通っておられるそうですね。樹の授業、少しはお役に立ちましたか?」
「は、はい、もちろんです! こちらこそ、大変お世話になりまして……」
樹さん、わたしのことなんか、お母様に話していたんだ……!
というか……、樹さんって、ここの何?
関係者なの? まさか……、そんな人がどうして家庭教師なんか……?