明日へのメモリー
「初めて御目にかかりますな。事情はすでに聞き及んでおります。御社の企業価値と株式価値については、現在、担当の者が調査中だが、さしあたって、必要な資金を当社で計上し……」
要点をついた、問い返す隙もないくらい一方的なお話だった。
両親はかしこまったまま、驚きと安堵の入り混じった顔で聞いている。
どうやら、うちの会社は倒産を免れたばかりでなく、九重の大資本をバックに再生をはかれるようだ。
でも、どうして……? どうしてわたし達にそこまでしてくれるの?
そのとき、会長がわたしをじっと見て、わずかに表情をほころばせた。
わたしの心の中を見透かしたように、頷いて言う。
「……今までどんなに言い聞かせても、まったく聞く耳を持たなかった頑固な孫息子が、お嬢さんのことでようやく折れてくれましたのでな。交換条件と言えば聞こえは悪いが……」
ま、孫――!?
苦笑している会長の前で、わたし達は三人とも、絶句して樹さんを見た。