明日へのメモリー
9
お母さんが微笑み、会長に何か囁いている。当の樹さん自身は、「参ったな」と言うように視線を泳がせた。
ふいに、障子の向こうから声がした。
「会長、お時間でございます。経財連の会長様が……」
「では、わしはこれで失礼する……」
会長はうなずくと立ち上がった。
「別室にて、ささやかな会席を設けております。お嬢さんとの具体的な話は、これの母親とゆっくりご相談いただく、ということで……」
わ、わたしの? 何……?
話がさっぱり見えずおろおろしていると、樹さんがやっと助け船を出してくれた。
「その前に、美里さんに少し庭を見せたいのですが……、少しの間、彼女をお借りしてもよろしいでしょうか」
両親がものすごい勢いで首を縦に振った。お母様も優しい顔でうなずかれる。
わたしは樹さんに引っ張られるようにして、その場から連れ出されてしまった。