明日へのメモリー


 庭に下りる踏み石の下に、きちんと草履とくつがそろえられた。

 何だか、急に遠い人になってしまったみたい……。先に立って歩く樹さんの背中を見ながら、身につまされる。

「……美里」

 母屋から少し離れた雅びな池の前で、樹さんが、やっと振り返った。ちょっと照れたようにわたしの全身を眺めてから、ポツリと言う。

「そんな顔するなよ……、って言っても無理だよな、やっぱり……」

 カラカラになった喉から、やっと返事を絞り出した。

「どうして……今まで何も教えてくれなかったの? 樹さん、それじゃ、九重の……」

 御曹司さん? 若様? 

 そんな人に、今までずっと恋してた。なんて馬鹿なわたし……。


 彼は少しの間黙っていた。

「お前にも、そろそろ話そうとは思ってた……。けど、それでもし、お前の俺を見る目が変わったら、と思うと……、ちょっと怖くてさ」
 怖い? どうして?

 訳がわからないまま、じっと見つめ返した。わたしの前に来た彼が、そっと頬に手を触れたのでびくっとする。

 次の瞬間、わたしは彼にきつく抱き締められていた。

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