明日へのメモリー

 息が切れかけたとき、やっと樹さんが顔を上げた。手の甲で唇をぬぐいながら、意地悪く口角を上げる。

「悪いけど、もう後戻りできないんだ。九条のじー様はじめ、俺の身内全員がその気になっちまった。だからお前も覚悟決めて、さっそく花嫁修業でも始めろよ。もちろん学校にもきちんと行くこと!」


 いきなり思考がショートした。まさか……、聞き間違いよね? 


「今……、は、花嫁なんとか……って聞こえた気が……」

「まだわかってないのか? お前は俺の嫁さんになるの! それを条件に、俺も九重に戻るって、あのじー様相手に手まで突いて頼んだんだぞ! 今頃母屋で、お前の親父さん達とうちの母親が、仲良く式のことでも話し合ってるだろうさ」


 ええええっ!


 たとえ世界が頭上に降ってきても、こんなには驚かなかったと思う。
 完全にフリーズしたわたしに、彼はさらに畳み掛けた。

「『連帯責任』だからな。お前も逃げられると思うなよ」

 ◎△□……!

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