明日へのメモリー
わたしは大急ぎで部屋に戻ると、カットソーとスカートに着替えた。
冷茶とお菓子をリビングのテーブルにセットしながら、一生懸命考えをめぐらせる。
あの人をこのまま帰したくない!
何か、もっとよく知り合う方法はないかしら?
やっと落ち着くと、母とわたしは樹さんを囲んでお茶を勧めた。
困惑顔でソファーに座っている彼は、なんだか可愛く見える。
母があれこれ尋ね始めると、隣に座って一緒に聞いた。
彼、榊原樹さんは今二十二歳。K大経済学部の四年生だという。うちの会社でアルバイト・スタッフをしているそうだ。
就活はもう終わったのかと聞くと、
「ええ、この春に一応。それでアルバイトでもしようと思いまして」
母の目が感心したように光った。
「それで、あなた、あの九重ホールディングスの関係の方なの?」
「それは……」
苦笑しながら彼は言った。
「僕の親戚が、たまたま中に入っているだけです。僕とは何の関係もないですから」