HAPPY CLOVER 4-学園祭に恋して-
俺は大きなため息をついてから、一気に階段を駆け上がった。
諒一がただのライバルじゃないから厄介だ。容姿が必要以上に優れているというのも気に入らないが、諒一は俺の知らない舞を知っている。それがとにかく腹立たしい。
しかもアイツは、俺がまるで舞を理解していないかのように、見下した態度で接してきた。
そりゃ交通事故のことだって、諒一に聞かされるまで知らなかったけど、知らなくたって俺は、舞に致命傷を与えるような真似は絶対にしない。
はっきり言って、あの諒一の「目に入れても痛くない」的な溺愛っぷりが、思い出すだけで吐き気をもよおしそうなほどムカつく。
――腫れ物に触れるような扱いが、舞を大事にすることだとは思わない。
諒一との対面から時間が経って、イライラしながらも俺は俺なりの答えにたどり着いていた。
しかし諒一はいないのに、見えない鎖が俺をがんじがらめにする。これがアイツの思惑か? だとしたら俺はまんまとその罠にはまってしまっている。
――バカバカしい。
せせら笑う諒一の忌々しい映像を、脳内から綺麗さっぱり削除した。
それにしても諒一の家でいったい何があったのか?
あまりしつこく聞くとケンカに発展しそうで、そのことはとりあえず保留にした。
本音を言えば気になって仕方ない。
だけどそこで執拗に問い詰めるのは、俺の美学に反する行為だ。そんな余裕のない男はみっともないし、嫌われても仕方ないだろう。
少なくとも舞の前ではそういうところを見せたくない、と俺は思う。
教室のある3階に到着すると、廊下をゆっくりと歩く。
息を整えながら、俺は両極に揺れる自分の気持ちを見つめ直していた。
――勇気を出して今の場所から一歩踏み出すことは簡単だ。
――だけど俺たちは高校生だ。当たり前のことだが俺にも、舞にも未来がある。堀内のように安直な行動をとって、舞の人生を狂わせるわけにはいかない。
俺の中の天使と悪魔は、寝ても覚めても人知れず死闘を繰り広げているのだ。
――俺だってできることなら、舞が俺以外の男を見ないように、そしてもっと俺に夢中になるように、魔法をかけてしまいたいけど――。
教室にたどり着くと、舞は廊下でロッカーを開き、英和辞典を取り出していた。扉の歪みは完全に元通りとはいかなかったが、我ながら上手く修復できたほうだと思う。
とりあえず堀内と高梨の件はこれ以上どうにもならないのだから、綾香先生の予言が的中することを祈るしかないだろう。
俺は舞の後ろを通り過ぎてから、わざとらしく振り返った。
「今日も放課後、残るよね?」
舞はびくっと肩を震わせて、おそるおそるこちらを見る。
「……残らないとダメですか?」
「猫の手も借りたいくらい忙しいんだけど」
「それなら私が手伝うよりも、猫の手を借りたほうがいいと思います」
真顔でそう言うと、舞は辞書を胸に抱き、背中を丸めて、俺を避けるように教室へ駆けていく。
廊下には多数の目があるから、舞がそっけない態度を取るのは仕方ない。そこまでは許容範囲としておこう。
しかしクラスメイトとの関わりを拒絶し続けることで、誰よりも舞自身が損をするのに、俺はそれを黙って見ているしかないのか?
おそらく諒一なら舞をそっとしておくんだろう。
俺だって、そうするのが無難かもしれない、と思う気持ちを完全には否定できないでいる。
だけど高校生でいられるのは今のうちだけだ。学園祭だって渋々出席するよりは、みんなと一緒に作り上げて、楽しんだほうが絶対いい。
というか俺は、舞にも楽しんでもらいたいんだ。
言っておくけど、企画書を作成したのは俺だから。それを彼女であるはずの舞が手伝いたくないっていうのは、どう考えてもおかしいだろう。
だいたいこの俺の誘いを断るとはいい度胸だ。今日も絶対逃さないからな!
諒一がただのライバルじゃないから厄介だ。容姿が必要以上に優れているというのも気に入らないが、諒一は俺の知らない舞を知っている。それがとにかく腹立たしい。
しかもアイツは、俺がまるで舞を理解していないかのように、見下した態度で接してきた。
そりゃ交通事故のことだって、諒一に聞かされるまで知らなかったけど、知らなくたって俺は、舞に致命傷を与えるような真似は絶対にしない。
はっきり言って、あの諒一の「目に入れても痛くない」的な溺愛っぷりが、思い出すだけで吐き気をもよおしそうなほどムカつく。
――腫れ物に触れるような扱いが、舞を大事にすることだとは思わない。
諒一との対面から時間が経って、イライラしながらも俺は俺なりの答えにたどり着いていた。
しかし諒一はいないのに、見えない鎖が俺をがんじがらめにする。これがアイツの思惑か? だとしたら俺はまんまとその罠にはまってしまっている。
――バカバカしい。
せせら笑う諒一の忌々しい映像を、脳内から綺麗さっぱり削除した。
それにしても諒一の家でいったい何があったのか?
あまりしつこく聞くとケンカに発展しそうで、そのことはとりあえず保留にした。
本音を言えば気になって仕方ない。
だけどそこで執拗に問い詰めるのは、俺の美学に反する行為だ。そんな余裕のない男はみっともないし、嫌われても仕方ないだろう。
少なくとも舞の前ではそういうところを見せたくない、と俺は思う。
教室のある3階に到着すると、廊下をゆっくりと歩く。
息を整えながら、俺は両極に揺れる自分の気持ちを見つめ直していた。
――勇気を出して今の場所から一歩踏み出すことは簡単だ。
――だけど俺たちは高校生だ。当たり前のことだが俺にも、舞にも未来がある。堀内のように安直な行動をとって、舞の人生を狂わせるわけにはいかない。
俺の中の天使と悪魔は、寝ても覚めても人知れず死闘を繰り広げているのだ。
――俺だってできることなら、舞が俺以外の男を見ないように、そしてもっと俺に夢中になるように、魔法をかけてしまいたいけど――。
教室にたどり着くと、舞は廊下でロッカーを開き、英和辞典を取り出していた。扉の歪みは完全に元通りとはいかなかったが、我ながら上手く修復できたほうだと思う。
とりあえず堀内と高梨の件はこれ以上どうにもならないのだから、綾香先生の予言が的中することを祈るしかないだろう。
俺は舞の後ろを通り過ぎてから、わざとらしく振り返った。
「今日も放課後、残るよね?」
舞はびくっと肩を震わせて、おそるおそるこちらを見る。
「……残らないとダメですか?」
「猫の手も借りたいくらい忙しいんだけど」
「それなら私が手伝うよりも、猫の手を借りたほうがいいと思います」
真顔でそう言うと、舞は辞書を胸に抱き、背中を丸めて、俺を避けるように教室へ駆けていく。
廊下には多数の目があるから、舞がそっけない態度を取るのは仕方ない。そこまでは許容範囲としておこう。
しかしクラスメイトとの関わりを拒絶し続けることで、誰よりも舞自身が損をするのに、俺はそれを黙って見ているしかないのか?
おそらく諒一なら舞をそっとしておくんだろう。
俺だって、そうするのが無難かもしれない、と思う気持ちを完全には否定できないでいる。
だけど高校生でいられるのは今のうちだけだ。学園祭だって渋々出席するよりは、みんなと一緒に作り上げて、楽しんだほうが絶対いい。
というか俺は、舞にも楽しんでもらいたいんだ。
言っておくけど、企画書を作成したのは俺だから。それを彼女であるはずの舞が手伝いたくないっていうのは、どう考えてもおかしいだろう。
だいたいこの俺の誘いを断るとはいい度胸だ。今日も絶対逃さないからな!