欲しいけど言わないで
『っ…!ふぅっ…え』
お手洗いに入った途端に決壊が崩れたように溢れ出る涙。
分かってた、一番になれないのなんて。
…ううん、でも心の何処かでいつか一番になれるんじゃないかって甘く、だけど愚かな夢を見てたのかも知れない。
彼に抱かれる度、甘くかすれた声で『好き』の言葉を囁かれる度に、いつか『愛してる』って言ってくれるんじゃないかって。
『愛してる』って言葉が欲しくて、だけど、その言葉を聞いてしまったら益々彼から離れられなくなりそうで、強い女の仮面が崩れてただのワガママな女になってしまいそうだから、聞きたくなかった。
お互いの本音を隠して、お互いに都合よく溺れるふりをして、だけど本当に溺れてるのは私だけ。
矛盾だらけの不毛な関係。
だったらやめてしまえば良いのに…でも、彼との関係が無くなるって考えただけで、胸が痛くて、息が出来なくなる。
誰かこの狂った想いを止めて…
そう思うのに…きっと、こんなにも苦しいのに、きっと私はこのあと鏡の前でメイクを直して、何事も無かった風を装って席に戻ってさっきの事を謝ったりなんてするんでしょう。
そして、きっとこの関係をずるずるとこれからも続けてしまう。
お願いだから、私と居るときには私だけを見て『好き』って囁いて?
例え身体だけの欲求だとしても、上手く騙してよ。
『愛してる』なんて言わなくても良いから。
『好き』って言葉以上に『愛してる』は重い意味を持つ。
その言葉を聞いてしまったら、きっと私はこれまでどうりでは居られない。
だから、言わないで居て…。
それが私のちっぽけなプライドを守る術だから。
END