鈍感ガールと偽王子
あたしは散乱した衣服を手に取り、ベッドの上に座ったまま、ひとつひとつ身に着けていった。
カチ、カチという部屋に置かれた時計の進む音が、やけに大きく聞こえた。
着替え終わってその時計を見ると、針は6時半を指していた。
シャワーの音はまだ聞こえている。
ベッドから立ち上がると、やけに身体が重かった。
今になって、すごく喉が渇いていることに気がつく。
あたしはベッドの脇に自分のバッグを発見して、その中から手帳を取り出す。
1ページ破って、『帰ります。迷惑掛けてごめんなさい』とだけ走り書きし、テーブルの上に置いた。
そして、できるだけ音が鳴らないように廊下を抜け、玄関で靴を履き、ドアをあけた。
勝手に帰ったりして、椎葉くん、怒るかな?
「……そんなわけないか」
仕方なく泊めただけだもんね。
あたしはアパートを出て、周りを見回す。
椎葉くんのアパートは、大学のすぐ近くだった。
これなら、迷わずに家に帰れる。
あたしは、いちども振り返ることなく、歩き出した。