鈍感ガールと偽王子



ガチャン、と音がして、椎葉くんが出ていったのが分かった。



「……」



椎葉くんの部屋なのに、いるのはあたしだけ。



なんか、変な感じ…。



ていうか、男の家でご飯作ってあげるとか…。



友達って、ここまでするもんなのかな…。



今まで異性の友達がいたことがないから、『普通』が分からない。



ていうかまず、男の部屋にふたりっきりっていう時点で、もしかして違うの?




「…ま、いっか」



考えたって仕方ないし。



別に、そういう仲じゃないし。



確かに椎葉くんはかっこしいし、そのカッコよさに時々ドキッとしてしまったり
もするけど。



たぶん、それって好きだからときめいてるわけじゃなくて。




恋、ではない。



……たぶん。




恋愛経験ゼロのあたしだから、その考えが合ってるかどうかなんて分からないけど。



じゃあその感情は何かと言われて名前がつけられるわけじゃないんだけど。




あたしはうーんと考えつつ、料理を作る手を休めることはしなかった。




────タン、タン、と野菜を切る音が、あたししかいない部屋に大きく響いて聞こえた。



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