鈍感ガールと偽王子
「ただいまー」
ガチャ、というドアが開く音と共に、椎葉くんの声が聞こえた。
「おかえり」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして玄関まで迎えに行く。
「ん」
椎葉くんは靴を脱ぎながら、コンビニの袋を差し出す。
あたしはそれを受け取って、「ありがと」と笑った。
「誰にも遭わなかった?」
「んー、たぶん」
リビングに入りながらそう言って、そしてまたキッチンへ戻る。
椎葉くんもついてきてあたしの隣に立つと、
「なんか手伝う?」
と訊いてきた。
……なんだかんだ言って、優しいよね。
今だって、わざわざ買ってきてくれたし…。
「ううん。大丈夫」
「じゃあ見てる」
「…ここで?」
椎葉くんはこくりと頷いた。
「……見られてるとやりづらいです」
「緊張する?」
「少し」
あたしがそう答えると、椎葉くんはなぜか可笑しそうに笑って、
「じゃああっちでおとなしく待ってるわ」
と言うとリビングに戻っていった。