私とトロンボーン
2
ようやく楽譜の練習にうつるようになった頃のことだった。
私に後輩が出来たのだ。
「後輩」と言っても、トロンボーンの後輩ではない。
もうひとりの彼だ。
「鉄琴」である。
しかも、同学年、同じクラスの男の子だった。
さらに言うと、彼を引き入れたのは私である。
手口はこうだ。
「人数が足りないから協力してほしい」
どこかで聞いたような詐欺紛いの誘い文句である。
元々その男の子は運動が得意なほうではなかった。
さきにも書いたとおり、人数の少ない我が母校では、部活の種類はたったの三つ。
その男の子も私と同様、血眼になってボールを追いかける彼らが苦手だったらしい。
「だったら金管部にはいる?」
と、結構軽いノリで誘った。
あとは、例の誘い文句だ。
「じゃあ、入ろうかな」
と、結構軽いノリの答えが返ってきた。
今思えば、なんて優しい子だったのだろうと涙がちょちょぎれる。
あんなずぼらな誘い方で、よくもまあ入ってくれたものだ。
今更ながら感謝をのべよう。
鉄琴君、ありがとう!
それはさておき、その男の子も金管部に入ることになった。
そして、担当楽器が鉄琴になったのだ。
金管部にとってなかなか貴重な男子部員だった。
なにしろ、現時点で男子部員は、その鉄琴君だけだったのだから。
この時期の男の子だ。
女の子に囲まれてたった一人というのはなかなか辛かっただろう。
しかし、彼は真面目だった。
サボることなく、毎日部活に来ていた。
わからないことがあると私に聞きにきていたし、上達も早かった。
顧問の先生も彼が気に入ったらしく、自ら、彼の仲間となる男子部員集めに貢献していた。
そのかいあってか、六月頃には、鉄琴君を含め、四人程の男子部員が集まった。
しかし、金管楽器が不足しているのは前年度となんら変わりない。
新たに入った四人の男子部員は、全員打楽器へとまわされたのだった。
さらに言うとこの年の上級生は、在籍率は良いのに不真面目でサボり気味な部員が多かった。
楽器は常に倉庫にある。
しかし、その楽器は他人のものなので持ちだしてはいけない。
しかし、その楽器が持ちだされることは全くない。
なんという悪循環だろう。
来ないのなら、いっそやめてくれたほうが楽器のためであり、彼らのためでもあっただろう。
最終的には来ることになったその上級生達だったが、先生から出た言葉は
「あんまり来ないなら楽器交換するよ。だって鉄琴君達のほうが出席率いいもん」
……だった。
「それはまずい」と思ったのだろうか。
今思えばなんとも失礼な話である。
結局来るようになっても練習しなければ意味がないのに…。
その上級生たちは、案の定秋~冬にかけてほとんどが辞めていった。
鉄琴君達が金管楽器を手にすることができたのは、その年の冬休み明けからだったのだ。
少しの間だけだったが、私にも後輩が出来た。
次からは、その後輩と肩を並べて演奏が出来るようになるのだ。
少し寂しい気持ちはしたが、それ以上の楽しみを見つけることが出来た。
私はまた、音楽が好きになっていった。
・
私に後輩が出来たのだ。
「後輩」と言っても、トロンボーンの後輩ではない。
もうひとりの彼だ。
「鉄琴」である。
しかも、同学年、同じクラスの男の子だった。
さらに言うと、彼を引き入れたのは私である。
手口はこうだ。
「人数が足りないから協力してほしい」
どこかで聞いたような詐欺紛いの誘い文句である。
元々その男の子は運動が得意なほうではなかった。
さきにも書いたとおり、人数の少ない我が母校では、部活の種類はたったの三つ。
その男の子も私と同様、血眼になってボールを追いかける彼らが苦手だったらしい。
「だったら金管部にはいる?」
と、結構軽いノリで誘った。
あとは、例の誘い文句だ。
「じゃあ、入ろうかな」
と、結構軽いノリの答えが返ってきた。
今思えば、なんて優しい子だったのだろうと涙がちょちょぎれる。
あんなずぼらな誘い方で、よくもまあ入ってくれたものだ。
今更ながら感謝をのべよう。
鉄琴君、ありがとう!
それはさておき、その男の子も金管部に入ることになった。
そして、担当楽器が鉄琴になったのだ。
金管部にとってなかなか貴重な男子部員だった。
なにしろ、現時点で男子部員は、その鉄琴君だけだったのだから。
この時期の男の子だ。
女の子に囲まれてたった一人というのはなかなか辛かっただろう。
しかし、彼は真面目だった。
サボることなく、毎日部活に来ていた。
わからないことがあると私に聞きにきていたし、上達も早かった。
顧問の先生も彼が気に入ったらしく、自ら、彼の仲間となる男子部員集めに貢献していた。
そのかいあってか、六月頃には、鉄琴君を含め、四人程の男子部員が集まった。
しかし、金管楽器が不足しているのは前年度となんら変わりない。
新たに入った四人の男子部員は、全員打楽器へとまわされたのだった。
さらに言うとこの年の上級生は、在籍率は良いのに不真面目でサボり気味な部員が多かった。
楽器は常に倉庫にある。
しかし、その楽器は他人のものなので持ちだしてはいけない。
しかし、その楽器が持ちだされることは全くない。
なんという悪循環だろう。
来ないのなら、いっそやめてくれたほうが楽器のためであり、彼らのためでもあっただろう。
最終的には来ることになったその上級生達だったが、先生から出た言葉は
「あんまり来ないなら楽器交換するよ。だって鉄琴君達のほうが出席率いいもん」
……だった。
「それはまずい」と思ったのだろうか。
今思えばなんとも失礼な話である。
結局来るようになっても練習しなければ意味がないのに…。
その上級生たちは、案の定秋~冬にかけてほとんどが辞めていった。
鉄琴君達が金管楽器を手にすることができたのは、その年の冬休み明けからだったのだ。
少しの間だけだったが、私にも後輩が出来た。
次からは、その後輩と肩を並べて演奏が出来るようになるのだ。
少し寂しい気持ちはしたが、それ以上の楽しみを見つけることが出来た。
私はまた、音楽が好きになっていった。
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