恋するキミの、愛しい秘めごと
「――カフェの事なんだけど」
そう切り出したのは、食事を終えて食器を片付けた後のこと。
温かい色違いのカップを持ってソファーに並んで座り、視線はボーっとテレビに向けられたまま。
家に帰って一度はリセットしたつもりだったのに、やっぱり気になってその事ばかり考えてしまう。
「何かいい案は浮かんだ?」
隣に座るカンちゃんは、仕事の話をする時は、やっぱり少しだけ“宮野さん”になる。
口調というか、雰囲気というか。
相変わらず前髪をピンで留めてはいるけれど。
「よくわからないんだよね」
博物館だからと、少しはそれを意識させる物の方がいいとは思うんだけど、それを推し出し過ぎるとマニアック路線まっしぐら。
きっと、小さな子供のいる家族連れやカップルから、ひとり博物館めぐりをするマニアまで。
客層はかなり広いはず。
その全員を楽しませることは難しいとは思うけれど、それでも少しは興味を示してくれたり、また来てもいいと思えるものにしないといけないと思う。
そんな話をすると、カンちゃんは何だかとても嬉しそうに笑って、人の頭をグチャグチャと撫でまわした。
「ちょっと、何!?」
思わず顔を顰めると、その手が止まって。
「ヒヨなら出来るよ」
黒い瞳で真っ直ぐに見つめられる。
私のことを信頼しきっていると言わんばかりにニッコリと笑って、カンちゃんはゆっくりと立ち上がった。
「カンちゃん?」
「そこまで分かってるなら、頭の中でゴチャゴチャ考えるよりも、色んな物を見てみた方がいいかもよ」
そんなよくわからない言葉を残して、いつも使っているタブレット端末を私にホイッと手渡して、「じゃー、お休み」とリビングを出て行ってしまった。
「……」
取り残された私は、眉根を寄せながらも渡されたそれを起動させ、インターネットに繋ぐ。
さて、開いたはいいけれど何を検索しようか。
そういえばカンちゃんは、時間があればこれで色んな物を見ていたな……。
そんな事を考えていて、ふと思った。
――カンちゃんはいつも何を見ているのだろう、と。
つい目がいってしまった、検索履歴。
でも何となく、それを見るのは“彼氏の背徳行為を探る彼女”を想像させて気が引けるというか。
このタブレットはいつでも使っていいと言われているから、多分どこを見ても問題はないとは思うのだけれど……。
どうしよう。
膝に乗せたタブレットとしばらく睨めっこをして、ゆっくりと指でその画面をタップした。
まずそうな物を見つけたら、中身を理解する前に見るのを止めるということで……。
検索されていたのは、たくさんの水族館や博物館について、色々な水槽の画像を表示した履歴が続く。
――そして。
一旦仕事を離れたのか、しばらくサッカーやスポーツ関連のサイトの履歴が続いたあと、
「……これは?」
開いてみると、表示されたのは沢山の惑星や銀河の画像だった。
赤や茶色、青緑。
思わず見惚れてしまう色とりどりの星達を眺めながら、そういえばカンちゃんは昔、宇宙飛行士になりたいって言っていたな……なんて思い出したり。
昔の思い出にクスッと笑みを漏らし、
「これは?」
その中の一つの画像で手を止めて、しばし考え込んだ。
これだったら、使えるかもしれない……。