恋するキミの、愛しい秘めごと
「じゃー、ゴハン出来たら呼びに来るから。それまで頑張って」
榊原さんの家に着くと、彼はまるでカフェのイケメンの店員のようにテーブルに温かいカフェオレを置く。
そして「あ、飲み放題も付いてるから」と、もうひと笑い誘って部屋を出て行った。
本当に不思議な人。
クスッと笑って、湯気の立つカフェオレに口を付けると疲れがフッと抜けるよう。
目の前には相変わらず綺麗な、大きな球体。
それを見ながら、ふと思った。
――私とカンちゃんの関係は、榊原さんに話してもいいのだろうか?
今までは他人だったから、話す必要はなかったけれど……。
その関係が“恋人”に変わった今、それを隠し続けて付き合うのもどうかと思うのだ。
「カンちゃんに聞いてみよう」
鞄からパソコンを取り出し電源を入れて、コートのポケットから携帯を取り出した。
ついでに、榊原さんの家にいる事も伝えておこう。
『今榊原さんの家にいます。遅くなるから、先寝ててね』
――なんて、はたから見たらまるで恋人に送っているメールみたい。
『あと、榊原さんにカンちゃんがイトコだって話してもいい?』
そう打ち込んで送信すると、ものの数分で返事が返ってきた。
『一応まだ秘密にしといて』
「“一応”って、何の一応よ」
いつもよりも素っ気ないメールに溜息を吐いて、まぁいいやとパソコンに向かう。
「……」
榊原さんの言う通り、時には環境を変えるというのもいいのかもしれない。
さっきまでなかなか魅力的な言い回しが出てこなかったのに、それがスラスラと頭に浮かぶのだ。
カタカタとキーボードを叩く指も軽い。
一つだけ残念なのは、いつもみたいに部屋の電気を消して、地球を見られないということ。
でもまぁ、仕方がない。
仕事が終わったら、テーブルの電気を消して見たいなー……。
その為にも、とにかく今は頑張らないと。
榊原さんに淹れてもらったカフェオレをもうひとくち口に含み、気合いを入れ直して資料作りを再開した。