恋するキミの、愛しい秘めごと
「前田にデリバリーでも頼めばよかったな」
ちょっと困ったように頭を掻く榊原さんがテーブルの上に並べたのは、お米とちょっと焦げた野菜炒めと、お味噌汁となぜかサラダ。
なんか野菜ばっかり。
思わず笑ってしまった私に、わざとらしく眉根を寄せて、「せっかく待ってたのに」と反撃に出る。
付き合って、まだ1ヶ月くらいだから当たり前なのかもしれないけれど、まだ知らない榊原さんがきっとたくさんいて、それを知ることが出来るのがすごく嬉しい。
「美味しいですよ」
口に運んだ野菜炒めはちょっと苦くて、中華のような和食のような不思議な味がする。
だけど悪くない。
一体何が入っているんだろう。
プレゼンをしてる時はあんなに凛としていて、何でも器用にこなしそうに見えるのに。
実はこんな一面があったなんて。
「いつまで笑ってるんだよー」
食事を終えてコーヒーを淹れ、いつもの部屋のいつものソファーに座る。
作ってくれたゴハンは本当に美味しかったのに、お世辞だと決めつける榊原さんは不貞腐れたように唇を尖らせていた。
たぶん32歳であろう男の人の表情とは思えないくらい可愛いその顔。
「……嬉しかったんです」
「え?」
「榊原さんの新しい一面が見られて、すごく嬉しいです」
その顔を今一番近くで見られるのが自分なのだと思うと、すごく嬉しいと思った。
だから素直にそう口にして笑うと、それまでふざけていた榊原さんの表情がスッと変わって……。
「南場さん」
「はい?」
「今日、泊って行って」
息がかかる距離で見つめられて、喉を通る唾がゴクリと鳴った。
「無理?」
無理じゃないけど。
「明日、朝一で家まで送るから。シャワー浴びておいで」
「……はい」
こんな時に、一瞬でも他の男の人のことを考えてしまうなんて。
「好きだよ」
「私も、好きです」
ゆっくりと重なった唇に、胸がギュッとしめつけられる。
それは私をすごく幸せな気持ちにさせて……
少しだけ、切なくさせる。
――“家に帰らない私を、カンちゃんはどう思うだろう?”
一瞬だけ脳裏をよぎった、自意識過剰なその考え。
だけどそれも、深くなるキスに遮られて、いつの間にか溶け出るように頭の中から消えて行った。