恋するキミの、愛しい秘めごと
会場に着くと、今日の競合プレゼンに参加する会社の社員達が最終チェックや打ち合わせをしていた。
「……」
あの人は、この前カンちゃんのサポートでついて行ったプレゼンで見かけた顔だ。
それに、向こうにはナカノ株式会社の椎さんも。
そんなに大規模のコンペではないとはいえ、やっぱり揃っているのはそれなりの顔ぶれだ。
あぁ、どうしよう。やっぱり緊張する。
電車の中で一度はほぐれた緊張が再び高まり出して、鞄を持つ手に力が入る。
――けれど。
「おはよう」
「……榊原さん。おはようございます」
少し離れた場所から私を見つけ、手を上げながら歩み寄るその人の笑顔にホッとした。
「宮野も、おはよう」
「おはようございます」
そういえば、こうして3人で会うのは、初めて榊原さんに会ったあの日以来かもしれない。
いつかカンちゃんも一緒に飲みに――なんて言っていたのに、バタバタとしてそれどころじゃなかったし。
榊原さんは相変わらず人懐こい笑顔を浮かべながら、隣に立つカンちゃんと話をしている。
それをボーっと見つめながら、昨日の夜の彼の顔とは全く別物だなーなんて。
……私は一体何を考えているんだか。
危うく暴走しかけた思考を遮るように頭を小さく振ると、離れた場所から榊原さんを呼ぶ声が聞こえた。
「あー、行かないと。じゃー、また後で」
「はい。お互い頑張りましょう」
去って行こうとする榊原さんに笑顔で声をかけると、
「……どうかしましたか?」
「いや、うん。頑張ろうね」
彼は少しだけ困ったような笑顔を浮かべ、けれどいつもと変わらぬ口調でそう言って、私の頭に手をポンッと乗せて歩いて行った。
どうしたんだろう。
視線の先にいる、同僚の元に戻った榊原さんはここから見る限りいつも通り。
だけど、何だかさっきの笑顔が引っ掛かる。
「ほら、こっちも準備するぞ」
その声にハッとして隣に立つカンちゃんに視線を向ける。
「どうした?」
「……いえ、何でもありません」
もしかしたら、榊原さんだって緊張しているのかもしれないし。
きっと、私自身が緊張でナーバスになっているから、そんな気がしただけなのだろう。
「これ、クライアントさんに出してくるよ」
その数十分後に何が起きるかなんて、知る由もなく。
「すみません。宜しくお願いします」
資料とテータの入ったROMをクライアントの担当スタッフの元に持っていくカンちゃんに声をかけ、私はパソコンを立ち上げた。